スタージャッジII 〜陽子〜
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翌日はとってもいいお天気で、あたしはパパに誘われて砂浜に行ってみました。海水浴ができる場所だから午前中の早い時間でもけっこう人がいます。バカンスのシーズンだもんね。あたしの着てるのは肩のフリルがとっても可愛いタンクトップ・ビキニ。お店で見た時、思わず声あげちゃったぐらいのお気に入り。これをビーチで着られるだけでも気分晴れるかなと思ったけど効果は半分。昨夜のマゼランのことばっかり気になります。

あたしは海で泳ぐのは得意じゃないけど、遊ぶのは好きなんです。波とゆらゆらしてるのは面白いし、足の裏がくすぐったいような砂の感触も楽しいし。潮の匂いも好きだし、きれいな貝殻や石を探すのも! あーあ、マゼランと一緒だったらもっと楽しいのに。

ひと遊びしてパラソルに戻ったら、パパが小さなクーラーボックス抱えて待ってました。パパは実はあたし以上にお日様に弱かったりするの。笑っちゃうでしょ。
「パパ、スイカ食べよ!」
「そうだな」
お昼までには帰ると言ったら、おばあちゃんがスイカだけ持たせてくれたのです。さすがおばあちゃん。暑い時のスイカほど美味しいものないよね。

パパがクーラーボックスを開けた時でした。なんかすっごくザワザワした声が聞こえてきて、あたしとパパはスイカを置いたままパラソルから出て見ました。
堤防の上のあたり、電信柱の2倍ぐらいの高さの空に光る卵形のものが浮かんでるんです。UFOか、ラジコンじゃねえのとか、みんな色んなこと言ってますけど、マゼランが昨日の朝飛んで行った時に、あんなのに乗ってた気が……。

あたしは思わずそっちに向かって走り出しました。光る卵も砂浜のほうに滑って来ます。それがすっと降りて来たと思ったらぼわんと光って卵のカラが消えました。
「な…に、あれ……?」
「映画のロケじゃない?」
「デザイン悪っ」
そこに立ってたのは、大きい、あたしの2倍ぐらいありそうな人――どうみても地球人じゃなくて宇宙人です。ゴツゴツした皮膚。片方は青っぽく、もう片方は緑。足は4本。まるで胴体の短いケンタウルスみたい。手は肩らしいところから2本、胸と背中かか1本ずつ。

〈よくあるタイプに見えるな。売ってもたいした金にならんだろう〉
〈スタージャッジが暴れてくれたおかげで船の修復にもう少しかかるんだろう? 何匹か採取してみようや〉
バレッタが言葉を拾いました。これ、もしかしてマゼランの敵!? そのうえ……
「みんな、逃げて! この人達……」

「きゃあああっ」
「うわあっ」
宇宙人の手がひゅんと伸びて若い男の人と女の人が捕まりました。あたりは大騒ぎになってみんな堤防の方に逃げて行きます。宇宙人は袋みたいなのにさらった人を詰め込んで背中にかつぎました。

「陽子っ!」
パパがあたしの手を引っ張ります。でもあたしは堤防の上の方に現れたもう一個の光に気を取られてました。お願い、早く、早く!

〈一応、幼生体もとってみるか〉
ヨウセイタイって……? 青い宇宙人がちょっと手を上げた先に、座り込んだ三歳ぐらいの子が泣いてます。

あたしは走りました。でも子供を抱き上げたところで背中に何かが刺さり、悲鳴を上げてその子を放り出してしまいました。あたしの体に青い腕が回り、すごく乱暴に引っ張られた時は頭が……梅酒の梅を食べ過ぎた時みたいにぼうっとなってきて。マゼランの変身した姿を見たように思いましたが、あとは何も…………。



〈……見つからないかな、兄貴?〉
〈奴より私たちの方が早い。それに船はノイズキャンセラーに覆われてる〉
〈まああのいかれたスタージャッジ相手なら、なんとでもなるか〉
〈確かにな。スタージャッジの管轄下に無防備で飛び込んだとわかった時はぞっとしたが、まさか担当以外の星の生命を助けに乗り込んでくるとは思わなかった〉
〈オレは楽しませてもらったぜ。ストリギーダ一匹押さえておいただけで憎たらしいスタージャッジの仲間をボコボコにしてやったんだから。他のスタージャッジもああいう具合にイカレててくれりゃ、オレたちの商売もラクだってのに〉

〈だが油断はするなよ、アトロス。あいつエネルギーが切れかかってたろう。もしヤツが壊れかけで更新の直前だったとすれば、次はいきなりヴァニッシュ砲が飛んでくるぞ〉
〈え……おどかすなよ、本気か、兄貴〉
〈バカが。だから海底にいるんだろうが。砲の位置を確認して裏に回ったところで脱出すればそれで終わりだ〉


最初は夢うつつでしたがマゼランの仕事上の名前を聞いて頭がはっきりしました。でも身体中布でくるまれて真っ暗です。袋の中なんだと思い出しました。彼らの話し声を聞きながらあちこち探ってみましたが、口のようなものがありません。
そうしたら急に袋ごと持ち上げられました。一部が開いて光と一緒に六本指の大きな手が入ってきます。あたしはできるだけ小さくなりましたが逃げられる訳もなく、左肩のあたりをぎゅっと捕まれて袋からひっぱり出されました。

「痛いっ、離してっ」
もがいたら二本の手で持ち直してくれたので、あまり痛くはなくなりました。でも近づいてくるごつごつした顔には赤い三つの目と大きな口があって、あたしは心臓が止まりそうでした。
〈幼生体用にごく少量にしたから、薬が切れちまったようだ〉
〈これでも成体か。細くてひ弱そうな身体だ。世話が面倒なんじゃないか?〉

あたしは砂浜でこの人たちが売るとか売らないとか言ってたのを思い出しました。すぐ食べられちゃうとかそういう感じではなさそうです。あたしは怖いのを押さえて頑張って笑ってみました。
「え、えーと、こんにちわ。どこの星から来たんですか?」
〈言葉のような鳴き方だよ、兄貴〉
〈どっちにしろ翻訳不能だ。まあペットとしてはちょうどいい程度の知能だろ〉
〈ストリギーダ人みたいに標準語をしゃべられても、ちょっと売りにくいよな〉
〈あれは声帯を処置してしまおう。観賞用なら十分だ〉

宇宙人達が顔を向けた方をみると大きな鳥籠があり、中に大きな鳥……じゃなくてたぶん別の宇宙人さんがいます。虹色の羽根をもったフクロウみたいに見えますけどすごくキレイ。このきれいなフクロウさんが人質に取られていたから、マゼランは……。

あたしは改めてあたりを見回しました。大きな倉庫みたいな場所で、動物を入れる檻のような箱がいくつも積んであります。壁の上の方がぼーっと光っているので物は見えます。さっきの話からするとここは彼らの宇宙船の中で、海の底にいるらしいです。マゼランは……海の底なんか、来てくれるの?

〈それよりその胴体を覆ってるのは皮か? 衣類か?〉
そんな言葉にはっとしたら、あたしの胸元にとんがった爪があたりました。水着を引っかけて引っ張って―――
「や……っ いやあっっ!」
お気に入りの水着がびりびりと破かれて……。手も上げられないあたしは身体を丸めようとしましたが、今度は足首を捕まれて引っ張られました。

〈身体に傷はないようだな。衣類か。しかし騒がしい奴だ〉
〈シンプルな見た目だがまあまあじゃないか、兄貴? それにいい感触だぜ〉
青い奴が四本目の手であたしの身体を撫でたりつねったりします。泣きたくて、でも悔しい気持ちもあって、あたしはぎゅっと唇を噛んで声が出ないようにガマンしました。そしたら横から緑の手が伸びて来て、あたしのあごをぐっと持ち上げました。
〈涙か。しかし怒っているようでもある。表情が豊かで面白いな。気に入る客は多そうだ〉

……怖い……。一人で知らないとこ連れていかれるなんて、いや……怖いよ、助けて……


〈……おい。船が……揺れていないか?〉
〈海流が変わったんじゃないの?〉
二人の宇宙人があたりを見回しました。緑の方があたしから手を放し、ちょっと離れて床をどんと踏みます。床から円筒形の柱がにゅっと出て来てきました。緑の宇宙人が柱の表面を触ると丸い表面に何か模様が浮かびました。
〈浮上してる〉
〈なんでだ!?〉
〈自動修復で何かあったんだろう。とにかくその生物をパックに戻せ〉
青いのがあたしを持ち上げて袋に目をやった瞬間、目の前を何かがぎゅんと通過して、あたしは落下しました。でも床に落ちる寸前に抱きとめられて。またそっと床に降された時、初めて誰がいるのかわかりました。

「あ……。マ……」
「遅くなってごめんよ」
マゼランが上着を脱いであたしにかけてくれてます。涙だけぽろぽろとこぼれますが、声がうまく出ません。
「……怖か……た……」
マゼランがちょっとだけあたしを抱き寄せて、肩をやさしく叩いてくれました。
「大丈夫だから」
少しほっとして、そしてやっと、ぎーっていう悲鳴みたいな声が響いていたのに気づきました。見ると青い宇宙人が手を2本切られてものすごく怒ってます。緑のが驚いたように叫びました。
〈スタージャッジ! なぜここが……〉

あっと思った時、マゼランはもう白いグライダーにぶら下がって青い宇宙人の直前まで飛び込んでました。
「IDカノン!」
日本の鐘つきみたいに白い大砲を青い宇宙人の胴体にぶつけるように押しつけたマゼランがぐっと踏ん張ります。
「ファイアっ」

〈アトロスッ!!〉
ものすごい叫び声を残して、青い宇宙人の上半分がふっとびました。赤い血をまき散らして倒れた宇宙人の下半身は首から抉られた馬のようで、あたしは思わずぎゅっと目をつむり顔を背けてしまいました。
〈貴様! いきなりっ!〉
〈昨日言ったはずだ。プランドゥにアトロス。警察の特A級凶悪指名手配犯ポーチャー・コンビ。お前達には無条件デリートの指示が来ている。ここは途上星だ。スタージャッジは警察の権限を持って処分を執行する!〉
既にあたしの脇まで戻っていたマゼランの顔はとても厳しく、凍ったように表情が無くて……。いつも優しいマゼランとはまるで別人でした。
〈この……!〉
〈未開途上星含めあちこちの星から住民をさらい、ブラックマーケットで売りさばいたお前達を許さない! クラッディング!〉

変身したマゼランが緑の宇宙人の方に飛びこんでいきました。緑の宇宙人は四本の手を振り回してマゼランを捕まえようとします。マゼランはすごくすばしっこく動き回ってますが、相手はマゼランよりずっと大きいし、力も強そうで……。

あたりを見回すといつのまにか部屋の隅っこまで運ばれてたことがわかりました。すぐ傍に二つの袋。海岸でさらわれたカップルです。ちょっと押してみたけど全然動きません。寝てるだけだといいけど……。顔を上げたら例のフクロウさんの鳥籠が床に置かれてました。マゼランったらいつの間に? とにかくこの人を助けなきゃ。あたしはカゴに近づいてみました。

フクロウさんは背の高さは人間ぐらいだけど、あたしの倍以上太くて丸っこい人でした。よくみるとクチバシから羽根まで透明なバンドのようなのでぐるぐる巻きになっています。丸い四つの目が悲しそうにあたしを見ていました。マゼランの上着のポケットを探ってみました。ナイフ見っけ。一応普通の折りたたみナイフです。あたしの腕なら鳥籠の棒の間から入るので、フクロウさんに向かって手招きしてみました。
フクロウさんはちょっと目を丸くしましたが、すぐ近寄ってきました。頭を下げあたしに向かってクチバシを差し出してきます。賢い。あ、こんな姿ですが宇宙標準語をしゃべるそうだし、あたしたちより頭いいのね、きっと。あたしはクチバシを巻いてるテープをそっと切りました。

〈ありがとう。身体のほうも切ってくれるか〉
「うん。じっとしててね」
身体の方にテープに手をかけると彼(かどうかはわからないけど)が言いました。
〈ん? 私はシリウス星圏語しかわからないんだ。できたらそれで話してもらえないか〉
あたしは困ってしまい、唇にに指をあてて首を振ってみました。
〈ああ、聞き取れるが話せないのか? 勉強中なんだな。私も昔はそうだった〉
ぜんぜん違いますが、あたしはうんうんとうなずいて、ベルトを切り始めました。ナイフの切れ味がとてもよくて、わりとすぐにフクロウさんを自由にできました。

でもこの籠からどうやって出してあげたらいいんでしょう。籠の周囲を回ってみましたが出入り口が無い。
〈やつらが触らないと開かないようになってるんだ〉
あたしは頭にきて力任せにゆすってみましたが、どうなるわけもありません。

「陽子、籠から離れて!」
マゼランの叫び声がして、言われた通りにしました。マゼランが今度は変わった声を上げます。英語でも日本語でもないしバレッタもなんにも言わない。でもフクロウさんが床に小さくなったので、この人たちの言葉なんだと思います。そのとたんマゼランのグライダーが飛んできて籠の上部を薙ぎ切りました。籠がばたんと倒れ、あたしは中からフクロウさんが出るのを手伝ってあげました。

〈助かった。君はスタージャッジのアシスタントなの?〉
フクロウさんがそう言います。あたしはちょっと悩んでから首を横に振りました。Yesと言えたらどんなにいいでしょう。でも、あたしはマゼランのことを知らなさすぎる。ほんとに、なんにも知らなくて……。
〈違うのか。この星の住人?〉
今度はYes。その通りです。

〈そうか。君たちは素晴らしいスタージャッジに守られてるんだな〉
「え?」
〈私の生まれた頃、私の星はもう連盟に加盟していたからスタージャッジのことは話に聞くだけだった。命令に忠実で担当する星を守るためには多少の犠牲はものともしない。長期に渡ってその星を外敵から保全し続ける頑固な管理人……。それがよその星の住人である私を助けるために乗り込んできてくれるなど思いもしなかった。私を傷つけまいとあんな目に遭ったのに、なおまた来てくれるなんて……〉

あたしは胸が一杯になりました。そしてさっきちょっとでもマゼランを怖いと思った自分が恥ずかしくなりました。マゼランはたぶん命令に違反してこのフクロウさんを助けようとしたんです。そして今も必死で……。

ずっと必死で……。ずっと独りで……。2400年もの間……


「だあっ!」
気合いの入った声がして、マゼランが緑の巨体を壁に向かって叩きつけました。緑の宇宙人、手が一本ありません。マゼランに落とされたみたいです。
「IDカノン!」
片手を高く掲げたマゼランめがけて白いグライダーが舞い降ります。これで終わり。これでマゼランの勝……

だんっという蹄の音。
「な……っ!?」
マゼランの身体めがけていきなり青い四つ足が飛びかかりました。さっき……さっき倒したヤツ……、なんで!?
〈我々の修復力を甘く見るな! アトロス、そいつを逃がすな!〉

青い胴体だけの巨大な馬が、太い足でマゼランを床に押さえ込みます。
「あ、ID…スライサー!」
〈やらせるか!〉
緑の奴がグライダーを捕まえ、片羽根を折ってしまって……

〈逃げるぞ!〉
フクロウさんの声ではっとしました。あの緑の宇宙人がこっちに来ます! 一つ足を引きずってるけど、大股で速い!
「待って、お願い!」
あたしは男の人と女の人が入ってる二つの袋を必死に引っ張りました。この人たちが掴まったらマゼランはまた……。でも重い。動かない……っ 
〈まかせろ。君は背中に乗れ、早く!〉
ばっと羽根を広げたフクロウさんのお腹から触手がでてます! 彼がお腹に袋を二つ抱え、あたしは言われた通りに背中に乗りました。フクロウさんはすぐ飛び上がりましたが、なかなか高くあがれません。
〈お、重い!〉

〈待てぇ!〉
恐ろしい声と共に、フクロウさんががくんと引っ張られる感じがして、そのあと急に軽くなりました。積まれた檻の上をめがけて上昇しながら振り返ったあたしは、人が入っている袋を1つ掴み取っている緑の宇宙人の姿に、息が止まりました。


〈スタージャッジ! これを見ろ!〉
緑の宇宙人が大声で怒鳴ります。青い身体をなんとか押しのけたマゼランが動きを止めます。
〈わかってるな。この中にはこの星の原住民が入ってる。潰して欲しいか!?〉
〈やめろ!〉
〈なら動くんじゃない。アトロス。やってしまえ!〉
〈ぶっ飛ばしてくれた礼をたっぷりとしてやるぜ!〉

驚いたことに青い胴体の上部にラクダのコブみたいにもこりと頭部が生えかかっています。まるで悪夢。それがマゼランを思いきり蹴飛ばしました。倒れたマゼランを太い前足で何度も踏みしだきます。マゼランはうめき声をあげますが、でも何もしない。何もしようとしません!
〈後悔させてやる! この出来損ないのビメイダーが!〉

世界が凍ったように感じました。その中でマゼランの身体が壊れた人形のように蹴り飛ばされては宙を舞い、何度も踏まれて……。何度も何度も……。

やめて……。やめて、やめて! マゼランが死んじゃう! 死んじゃうよ!

あたしはマゼランの所に行こうとしますが、フクロウがあたしを捕まえます。
「離して! 離しなさい!」
〈静かにして! 彼が君に何か言ってる!〉
痛いほどに揺すぶられて、やっとあたしを呼ぶマゼランの声に気づきました。

「陽……子。落ち着け…」
壊れた床の中からゆらりと立ち上がったマゼランが少しよろめいて、あたしを見上げました。
「大丈夫だ……。そこに……いろ。すぐ、終わる……」
〈何をごちゃごちゃと!〉
蹴りこまれた足を受けても、それを押しとどめる力がマゼランにはありません。でも何をされてもマゼランは立ち上がって来る。それが青い宇宙人には頭に来るようでエスカレートして……。もういい。マゼラン、もういいよ……!

もう何回目か、壁に叩きつけられたマゼランの身体が一瞬ぼわっと広がったように見えました。あっと思ったらそこに居たのはいつものマゼラン。……なんで……。その姿じゃ、本当に死んじゃう!

〈サポートアーマーが維持できなくなったなったか。エネルギーが尽きたようだな〉
壁で身体を支えながら立ち上がったマゼランは肩で息をしながら言いました。
〈だけど……まだこうして……ぴんぴんしてるよ……。ぼろぼろのお前らとは……えらい違いだ〉
〈そんな状態で、まだ強がりか〉
〈名の売れたポーチャー・コンビも……たいしたこと無いって……言いたいだけさ〉
〈なんだと!〉
〈アトロス、どけ。あとは私がやってやる。手足を全部もぎとって、まだそんなことが言えるか、試してやる〉

今まであまり手を出さす、背中側の手で袋を持って見ていた緑のが足を引きずりながら踏み出しました。それがマゼランに両手を伸ばした瞬間、マゼランがぐんと跳ね飛びます。緑の宇宙人の頭上を飛び越え、人質の袋を奪い取りました。それをあたし達のいる場所めがけて投げ上げる! フクロウさんが飛び出して空中キャッチしてくれました。

「IDカノン!」
床に落とされていたグライダーががたごととなんとか変形しました。マゼランはそこまで走ると大砲を真上に向けます。
「全弾装填! ファイアっ!」
立て続けに大きな発射音がして、天井に大きな穴が空きました。そこから青空が……。いつの間にか海上まで出ていたんです。マゼランがフクロウさんの言葉で何か叫びました。フクロウさんがお腹の触手で袋を二つ抱えました。
〈警察のシップが来るそうだ。背中に乗って!〉

でもあたしはそんな言葉聞いてませんでした。マゼランがゆらりと揺らいで、そのまま座り込んでしまったんです。完全に力を使い果たしたように……。

「エネルギーが尽きた」さっきの宇宙人の言葉があたしの頭に蘇りました。昨日も「エネルギーが切れかかっていた」 昨夜あの浜辺で疲れ切っていたマゼラン。でも今日は……。
ずっと心の中でひっかかっていたことが形になりはじめました。あの髪の長いおばさんが遊園地に降りてきた時、なぜマゼランは変身せずにただ掴まったんだろうって。あの迷路の屋根の上でも、帰ってきた砂浜でも普通に変身してたのに。

そこにあったのは……


緑の宇宙人がマゼランのすぐ前まで近づいていました。マゼランがそれを見上げ、口の端だけで笑いました。
〈お前達は……もう逃げられない。船は飛ばない。……浮上させる時に細工したんだ……〉
〈スタージャッジ、貴様……。いい覚悟だな……〉
〈ああ。僕の身体は……くれてやる。好きにしろ。……だが4人は警察に……〉

「いやよ! そんなの絶対いや!」
檻の棒を滑りおりた手がひりひりと熱い。でもあたしの身体はもっと熱くて、まるで蒸気になったよう。

「……よ、陽子、ばか! くるな!」
「バカじゃないもん。怖くもない!」

お願い、あたしの考え、当たってて!

あたしは空を飛ぶように走ってマゼランの腕の中に飛び込みました。
まん丸な目をしたマゼランの頬を両手で包んで、そっと唇を近づけます。

大好きな人に生きていてほしい。ただ一つの願いを全身全霊で祈りながら……。


2007/2/18

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